ソーダアイスより君を。

  じとり。


  夏の日差しで汗が流れ落ちる。

  湿る肌 透ける背中

  それを見て、思わず扇情的だと思った。

 

 ローランドは普段はスーツに外套、更に軍帽と体のシルエットが曖昧になっている。

 そのような感じだったのに、いま彼は薄着でいる。


  白い半袖のTシャツ

  七部丈の黒のパンツ

  軍帽はなく、緑色の髪が額に張り付いている


「暑いですね」


 着色料でやけに鮮やかな水色のソーダ味のアイスを咥えながら彼はそう言う。

眉毛を八の字に歪んだ整った顔に思わず見惚れてしまう。


 僕が女の子だったら、ローランドのようなかっこいい男性がこの色っぽい姿でいたらドキドキが収まらないんだろうなあ。


 じっと見つめていると「アイスキャンディー、司令官殿も食べますか?」と口を開く。


「うん、欲しいなあ ローランドと同じやつ」

「それでは、台所から持ってきますね 少々お待ちください」

 

 ローランドが部屋を出る際、衝動的に、僕は。


「司令官殿……?」


 思わず後ろから抱きしめる形になってしまった。

 そして今にも ぽたり、と水滴が落ちそうな彼のソーダアイスを口に入れた。


「このアイスがいい」

「でも、俺の食べかけですよ……」


 だから、欲しいんだ。

 ソーダ味を堪能しながら、彼の背中が目に映った。


 じとり。


 彼の背中に張り付いた汗はアイスと同じように、ぽたりと雫を落とした。

 彼の背中にキスをし、そして口に含む。


 ごくり。


 「美味しくないですよ、俺のは」


 彼はそう言うと、こちらに振り向き僕の目を見つめた。


 「監察官の方が美味しそうです」


 甘そうで白く柔らかい菓子の味がするのでしょう。

 あなたはいつも美味しそうに甘味を食べるものですから。


 君はそう言うけど、

 それってちょっと夢見がちだよ。


 「ううん、僕のも塩辛いよ」


 ローランドが僕の背中を舐める。くすぐったいなあ。


「それでも、あなたのは何故不快にならないのでしょう」


 お互いがお互いの肌を舐め合う。

 愛おしいなあ、と思いつつ

 僕は女の子じゃないけれど、

 もしかしたら君のことが好きかもしれない。

 

 彼の熱っぽい視線が僕に向けられるのを感じ

それがやけに鼓動を早くするのだった

 

 ぽたり。

 

 アイスの水滴が落ちる。

 

 それでもお構いなしに、このじめじめとした部屋で僕たちはまだ「恋」という名称の感情をまだはっきりも知らないまま「愛」の行為をする。


 夏の彼は日差しに照らされ眩しく、

 見つめ合いながら混じり合った。

 

 好きだと自覚するのがまだ恥ずかしいよ。


 なんて、ぼんやりと思いながらこの瞬間を愛おしく感じた。


 チリン、と風鈴が涼しげに鳴った。


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